ヒトをはじめ多くの動物でゲノム解析が進み、その遺伝子の配列は次々と明らかにされてきた。しかし、それら遺伝子が生体内でどのような機能を有するのかに関してはいまだ未知な点が多い。生体機能学分野では、"からだの仕組み"を明らかにするために、発生学的手法を駆使して、目的遺伝子を導入したトランスジェニック動物を作成し、その解析を行っている。また、先天的あるいは後天的な疾患モデル動物を用いて、細胞移植や遺伝子導入による治療実験を行い、生体における遺伝子の機能を基盤とした生体の機能解析を目指している。現在、本分野では以下の4つのプロジェクトを柱に研究を進めている。生体機能学分野では、動物の体のしくみを理解し、獣医療に役立つ研究を目指している。興味を持たれた方は気軽にお問い合わせください。
1)遺伝子組換え動物の作成と解析
生体における遺伝子の機能解析システムとして、受精卵への遺伝子導入によりトランスジェニック動物の有用性が広く認知されている。特にマウスはゲノム情報が豊富な上、遺伝子ノックアウト技術も確立されている。しかし、体サイズが小さいためwhole bodyを用いた薬理実験や行動解析に難がある。一方、ラットはマウスに比して約10倍の対サイズを有するため、実験的な外科手術や繰り返しの採血も比較的容易である。当分野では実験の目的に合わせてトランスジェニックマウスならびにラット(Ueda et al.,2006)あるいはラビット(Takahashi et al., 2007)の作成を行い、遺伝子の機能解析ツールとして利用している。
2)臓器幹細胞を用いた再生医学研究
これまで難治性疾患の治療として臓器移植が行われてきたが、ドナー不足の問題は獣医臨床でも同様である。また、移植後の拒絶の克服も大きなハードルである。臓器移植に代わる方法として自家あるいは同種異系の幹細胞を用いた再生医療が注目されている。我々は、ドナー幹細胞のfateを追跡可能とする細胞マーキング用タンパク(現在のところ、GFP, DsRed, luciferase、LacZ)を全身性に発現する動物の作成に成功しているので、これらの動物を用いて、neurosphereを用いた脳梗塞の治療、骨髄細胞由来のMSCを用いた血管新生に関する研究を行っている(小林ら2006)。
3)バイオイメージングシステムを用いた動物実験モデル
生体内の遺伝子の発現や移植細胞の動態を可視化することができるバイオイメージングシステムがライフサイエンス研究分野で注目されている。また、本方法は動物に痛みを伴わず、しかも同一個体を繰り返し利用することが可能なことから、動物福祉の点からもその利用が期待されている。バイオイメージングシステムのなかでもルミネッセンスは組織透過性ならびに解像度の点で優れている(Hakamata et al., 2006, Haga et al., 2007)。現在、本システムを利用した発生初期胚の解析を計画している。
4)生殖工学技術の改良と普及
動物資源(動物胚ならびに培養細胞)の保存と有効利用を目的に研究資源バンクが国内外で運営されている。しかし、動物胚に関しては凍結サンプルの融解・移植に関する技術が一般的に普及しておらず、バンク利用のボトルネックになっている。当分野では、定法に従って凍結された胚の取り扱いについて習熟し、その技術普及につとめるとともに、安全で確実な配偶子の新たな保存法の開発を目指している。
◆ 論文・特許 ◆