担当教員:福所 秋雄 教授・青木 博史 講師

近年、動物衛生、畜水産安全管理、公衆衛生及び食品衛生など多くの領域で微生物によるリスクを制御・低減することの重要性が一段と高まっています。それらの社会的ニーズに応えられる即戦力となる専門技術者の育成を目指し、本研究分野では、無菌操作、組織・細胞培養技術、微生物取扱操作及び微生物検査等の基礎的な知識と技術の習得・習熟を重点において教育・指導を行っています。また、本研究分野担当教員の感染症予防及び動物衛生等の現場の実働経験を活かし、微生物検査法・診断法に関した技術指導を心掛けています。

研究に関しては、主にウイルス感染症に関する研究を展開しています。感染症は、病原体側と宿主(動物)側の様々な要因が複雑に相互作用して起こります。それらの要因を生物学的・分子微生物学的手法を駆使して明らかにし、「感染症」という生物現象の解明に取り組んでいます。また、得られた成果に基づいて診断・予防の技術開発を目指しています。その他に、感染経路の解明や動物衛生への還元を目的として、各種野外材料からのウイルス分離又は野外流行株の調査結果に基づいた疫学的解析も実施しています。


1)ペスチウイルスに関する研究

ペスチウイルス属には、豚コレラウイルス(CSFV)、牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)及び羊のボーダー病ウイルス(BDV)が含まれます。本ウイルスの生物学的性状は多様で、CSFVやBVDVでは、細胞病原性、END(Exaltation of Newcastle disease virus)現象、干渉現象、遺伝子型あるいは血清反応性によって性状の異なるウイルスに分けることが可能です。また、それらの性状の相違がペスチウイルスの病原性や多様な病態形成に関与している可能性も示唆されています。一方、ウイルス株を構成するメジャーなウイルスに対して性状の異なるマイナーなウイルスが同一株内に多数存在(出現)することがRPF(Reverse plaque formation)法の開発・応用や細胞病原性ウイルスの研究等によって確認され、ウイルス−ウイルス間(ホモ/ヘテロ)及びウイルス−宿主間の相互作用の解析が進められています。


干渉現象を応用したリバースブラック法(Fukushoら、1976)
リバースプラック法の開発により、END現象を示さないペスチウイルス(豚コレラウイルスや牛ウイルス性下痢ウイルス)の検出・分離が可能となった。本法の原理となった水胞性口炎ウイルスなどを持続的に干渉する内因性干渉の分子基盤の解明に向けて様々な角度から研究を進めている。

本分野では、これらのメカニズムを生物学的手法と分子ウイルス学的手法を用いてより詳細に解析しています。特に、ペスチウイルス属のプロトタイプとされる牛ウイルス性下痢ウイルスを用いて、@細胞病原性機構と粘膜病発症機序、A自然免疫の観点からのウイルス間相互作用及び病原性規定因子、B株構成ウイルスのポピュレーション変動と病原性への影響、Cペスチウイルスの種間相違、などを中心に研究を進めています。


2)動物ウイルス感染症の克服のために


犬ヘルペスウイルスの検出例
潜伏感染し、流産などを引き起こす犬ヘルペスウイルスについて疫学的調査を進めています。(左:プラックアッセイ、右:PCR法)

近年、動物衛生対策の努力や動物用医薬品等の発展により甚大な被害をもたらす動物感染症は減少しつつあります。一方で、重要感染症の突発的発生、薬剤耐性病原体の出現、慢性感染症や複合感染症の顕在化が問題となっています。これらの問題を解決する一助として、本研究分野では、種々の動物(伴侶動物、産業動物及び野生動物等)からの特定の微生物の分離同定・性状解析に取り組むとともに、疫学的解析を行っています(豚サーコウイルスや犬のウイルスなど)。また、ウイルス分離の効率を高めるため、ウイルス感受性培養細胞の確立や検出法の改良・開発等を行っています。


3)安全な生物製剤を支援する

ウイルスの複製や次世代粒子の産生には細胞が必須であり、ウイルス分離検査やワクチン等の生物学的製剤の製造に培養細胞は欠かすことができません。一方、ウイルス株によって細胞感受性に相違が認められることや、微生物が細胞に迷入する恐れがあることは組織培養技術にとっての障害となります。本分野では、各種動物ウイルスの分離・複製に適した培養細胞の作成や、微生物の迷入のリスクを減じた組織培養技術の確立に取り組み、ウイルス感染症診断技術の発展や生物製剤の安全性・有効性のさらなる向上に貢献することを目指しています。

◆ 論文・特許 ◆