担当教員:近江 俊徳 准教授

本分野では、分子遺伝学的手法を用いて「医療・福祉に役立つ遺伝情報の探求」をテーマに種々の研究課題に取り組んでいる。下記にこれまでの主な研究成果と今後の取組みについて記述した。なお、ヒト遺伝子解析研究は自治医大遺伝子解析倫理委員会で承認済みの上、同大学法医学部門・人類遺伝学部門で行われた研究である。


1)血液型物質の分子遺伝学的研究

ヒトRh式血液型の抗原様式は多様性に富みかつ、輸血不適合や新生児溶血性疾患など臨床的に重要な血液型である。この血液型システムにはRhDとRhCEの2つの抗原が赤血球膜蛋白に担われていることは知られていたが、遺伝子構造については不明点が多かった。そこで、我々は、Rh式血液型の遺伝子解析を行い、cDNAのクローニング(Kajii E, et al., Hum Genet 1995)、ゲノム構造を解明(Okuda et al., BBRC 1999, Okuda et al., BBRC 2000)し、さらに各種表現型における変異遺伝子解析と抗原エピトープの同定(Omi T et al., BBRC 1999, Omi T et al., Transusion 2000 Omi T et al., Transfusion 2002)を明らかにした。また、Duffy式血液型システムの研究では、抗原エピトープのアミノ酸変異を明らかにした。(Iwamoto S et al., Blood 1994, 1996)。動物においてもヒト血液型相同遺伝子は存在し例えばブタにもRh式抗原は発現していないものの遺伝子は保有している(Omi T et al., Anim Genet, 2003).最近、Rh式蛋白はアンモニウムトランスポーターとしての機能も報告されており、霊長類以外の哺乳類にも高度に保存されている Rh蛋白(遺伝子)がどんな働きを持っているのか興味深い。


2)高血圧・糖尿病の疾患関連候補遺伝子の同定に関する研究

高血圧の大半を占める本態性高血圧の原因には環境因子と遺伝因子とがあり、本態性高血圧は多様な病因に基づき、多数の遺伝因子がかかわっていると考えられている。我々は症例対照研究によるシングルキャンディデートアプローチにより本態性高血圧症の候補遺伝子探索を行い、炎症関連遺伝子として報告されていたCIAS1遺伝子内のVNTRが高血圧と関連していることを見出した(Omi T. Eur J Hum Genet, 2006)。また、日本人の3地域集団において本態性高血圧関連遺伝子領域として知られているヒト第17番染色体の5MbのSNP解析を行った結果地域差があることを明らかにし、現在高血圧の発症頻度との関連を解析している(Kumada M et al., 2008)。

インスリン作用不足による慢性高血糖である糖尿病も、遺伝因子と環境因子が関与している。このような多因子遺伝の遺伝子多型解析は、基礎となるサンプルの臨床データーの精度が大変重要である。我々は、モンゴル医科大との共同研究により糖尿病患者サンプルを独自に構築し遺伝子解析を行った結果、RBP4遺伝子内のSNPがモンゴル人の2型糖尿病に関連することを明らかとした(Munkhtulga L Hum Genet)。また、糖尿病関連遺伝子であるPPARγの新規スプライシングバリアントの存在をブタとヒトに見出した(Omi T, J Anim Breed Genet, 2005)。


3)伴侶動物の分子遺伝学

平成20年度の分野学生の卒論テーマとして目下、1)伴侶動物の血液型多型性解析、2)炎症関連遺伝子解析、3)体長関連遺伝子解析、4)DNA性別判定法の開発などに取り組んでいる。また、学内共同研究として野生動物のDNA個体識別、疾患関連候補遺伝子探索などの基盤研究を構築中である。

最後に、将来の研究発展を見据え各種動物のゲノムバンクの構築を推進しています。本分野に興味のある方はゲノムバンク構築へのご協力よろしくお願いします。

◆ 論文・特許 ◆